へんな旅ばかりしています。

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ご近所トラベル:ファンシーとシリアスのあいだ、その1。あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」を観てきた。

本当は順を追って書いていこうと思っていたのですが、本日8/3をもって展示取りやめが決定したとのことですので、先に回すことにしました。

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8月1日から、3年に1度のアートイベント「あいちトリエンナーレ2019」が始まりました。

 

基本的には「現代美術」中心の芸術祭。正直、モダンアートは難解なところもあるし、会期も10月中旬までと長めなので、そのうち時間があれば行ってみようかな…とか思っていたんですが、今年はちょっと様相が違うようで…。

 

まず、「あいちトリエンナーレ」って何?というお話から。アート関連に詳しいわけじゃないので結構乱暴にお話ししますが、2010年に始まった国際芸術祭です。「トリエンナーレ」というのはイタリア語で「3年ごと」みたいな意味(なお、同じようなイベントで出てくる「ビエンナーレ」ってのは「2年ごと」らしい)で、2013年、2016年ときて、今年は4回目、となります。特徴としては、愛知県下で比較的広範囲にわたって会場が設定され、音楽やパフォーマンス、映像作品なども含めて多数のアーティストが参加して数多くの作品が展示されること、でしょうか。

 

会場としては毎回「愛知県芸術センター」と「名古屋市美術館」を中心に、名古屋市内や愛知県下の数カ所にも設定されます。今年は名古屋市内の四間道エリアと豊田市も会場となっており、この春に東京で開催され、先月から豊田市美術館での開催が始まった「クリムト展」も「あいちトリエンナーレ2019」の関連企画という扱いのようです。

 

メイン企画である「国際現代美術展」には66組のアーティスト・団体が作品を展示するのですが、その66組のひとつに「表現の不自由展・その後」が入っていたことが、地元でも「そこそこ」の注目度だった「あいちトリエンナーレ」を一躍「話題のイベント」に押し上げてしまったようです。いわゆる「慰安婦像」や「皇室のお方を冒涜するような作品」がある、という情報から、政治家を含む方々から抗議が殺到、と。

 

これは早めに観ておかないともしかしたらもしかして、と思って、急遽この週末に行ってみることにした次第。

 

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「あいちトリエンナーレ」メイン会場である、愛知県芸術センターにやってきました。主要な展示はこの中の「愛知県美術館」の10階と8階のギャラリーにあります。まずは10階のメインエントランスで入場券を購入。当日券は1600円ですが、会期中のフリーパスが3000円なので、全体を時間をかけて観るのであれば、そちらの方がお得かもしれません。作品数が多いし会場も分かれているので、1日では観られる作品は限られそうですしね。

 

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10階の作品を鑑賞した後、8階へ移動。問題?の「表現の不自由展・その後」は「A23」エリアでの展示です。マップで分かるとおり、全体から見ればかなり小さなスペースで行われています。また、ここだけ観覧希望者が多数となる状況は想定していなかったようで、「A22」前に急遽設定したらしい入場待ち列が設定されていました。おそらく、ネットで「炎上」しなければ、こんなに観に来る人は多くなかったんじゃないでしょうかね…。

 

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入口には「SNS投稿禁止」の掲示がありました。ただ、「会期中の」とも読めるので、この展示が終了した今となっては「解禁された」と考えていいのですかね。なお、「あいちトリエンナーレ」の他の作品は基本的に撮影自体の制限は殆どなく、SNS投稿などへの制限もありませんでした。

 

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トリエンナーレの実行委員会による解説文。

 

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その隣には、この展示を行った「実行委員会」の挨拶文が掲示されています。いずれにせよ「そもそも”表現の自由”って?」という問題提起の意図がかなり大きいことは、ある程度読み取ることができるかと思います。

 

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これが、話題の中心の一つである「少女像」。隣の椅子に座っての撮影が可能になっていました。解説文にはこの像に込められた意味が書かれていましたが、その一つとして、この少女像は踵が床に着いていません。これは慰安婦としての役割を終えた女性たちを当初受け入れず、しっかり立って生きることを認めずに「無視」してきた韓国政府や韓国社会への批判の意味ということだそうです。

 

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これも問題視された「天皇の写真を焼いてる!」もの関連。これは「そこに至る話」があってのことのものだったという話でした。事の起こりは大浦信行の天皇の画像をモチーフにした作品を、富山県立近代美術館が政治家などの抗議を受けて非公開のうえ売却、その図録も焼却処分したこと。ごく簡単に言うと「おまえ図録燃やしたよな?こっちも燃やして抗議だ!」というような流れ、なんだそうです。天皇の写真を焼く映像だけが目立って報道されていましたが、美術館への抗議として「作品を焼く」映像と、それを焼いた灰を美術館に所蔵品として送りつける(図録を焼いたくらいだから、灰くらいは所蔵できるでしょ、みたいな意味みたい)という一連の流れが「作品」です。まぁ抗議として「燃やしちゃう」という行動はいかがなものかと思いますが、図録を焼却処分ってのも「やりすぎ」なんじゃないかなぁ、と。なお、この「事件」は訴訟沙汰となり、美術館側は「天皇プライバシー権」を主張したものの認められませんでしたが、同時に主張した「管理上の問題」については認められた形になったようです。

ちなみに、この展示は会場に入ってすぐの通路に当たるエリアにあるため、作品を見る人だかりで通れないような状況になっていました。ここでも「そこまで注目されて広が来る」想定でなかったことが偲ばれます。

 

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なお、ニューヨーク近代美術館で展示され、韓国系アメリカ人の団体に「旭日旗だ」と抗議された横尾忠則の作品も展示されていました。MoMAは結局は撤去の要求には応じなかったようですが、「これは軍国主義的ではない」というような説明をしたようで、これについて解説文では「もっと日本の伝統文化という点から説明して作品の尊厳を守るべき」と、その姿勢を批判しています。なお、横尾忠則の作品としてはもう一つ、ターザンをモチーフにしたラッピング電車のデザインをJR西日本が「尼崎の列車事故を想像させる」と拒否した事例も紹介されています。デザインを見る限り、「コレで脱線事故の被害者を思い起こすのって相当に想像力豊かな方ですね」としか言い様がない感じでしたけど…。

 

そのほか、資料的にここ5年間ほどの間に起こった「表現の自由」に関する事例を紹介する年表があり、右より・左よりだけでなくエログロ表現に関するものが取り上げられていました。

 

全般的な感想としては、すごく考えさせられる内容であったのは確かです。「展示されなかった経緯」も比較的淡々とした説明となっていて「展示しないとはけしからん」的なニュアンスはあまり感じませんでした。その分、「これを展示しなかったという判断はそもそもどうだったのか?」というところからの問いかけとして構成されていた、という印象です。そういう問題提起としては、意味はあったんじゃないでしょうか。作品の傾向の偏りは、そもそも「何らかの形で展示できなくなる」案件が「そっち」系統に多めだから、という点はあったんじゃないかなぁ、と。

 

ちなみに、自分が鑑賞していた間には、展示室内で何かトラブルと思われるようなことはなく、皆さん静かに鑑賞していました。

 

あ、「あいちトリエンナーレ」自体はなかなか面白い作品がたくさんあって、「現代芸術なんてよくわらん」という感じでも楽しめるので、是非みなさん来てね。