へんな旅ばかりしています。

へんな旅をしているようなので、自分のための防備録的にやってみます。

令和2年2発目、「奈良ホテル」に泊まりにいく。

クラシックホテルの名門、奈良ホテルに泊まってきました。

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奈良ホテルの開業は1909年。昨年から今年にかけて「開業110周年」ということで記念企画を打ち出しているのですが、そのなかで「大感謝ありがとうセール」というのがありました。1泊のルームチャージが1万1千円から、という破格の宿泊料が設定されただけでなく、ディナービュッフェ20%オフ+朝食110円、次回使える宿泊料半額割引クーポンも付いちゃう大盤振る舞い。さすがに週末は1泊2万円が最低ラインでしたが、それでも普段の料金に比べればかなりのお買い得感。この機会に泊まってみることにしました。

 

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ホテルまでは近鉄奈良駅から歩ける程度の距離ですが、今回はホテルの無料シャトルバスを利用しました。バス乗り場がちょっと解りにくく、駅の西側のロータリーの先、「やすらぎの道」沿いにバス停があります。

 

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ホテルまでは10分弱。チェックインは丁寧かつスムースでプロフェッショナルな感じでした。夕食について訊かれたのでビュッフェ利用をお願いしたところ、夜7時の枠が満席で5時半からのみとなるとのこと。ちょっと早いですが昼食が軽めだったので別にいいや。

 

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今回は新館のスタンダードツインのお部屋です。1984年に追加されたセクションなので、内装は近代的。

 

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窓側にはイミテーションですが暖炉があります。「暖炉」はこのホテルにとってシンボル的な存在で、本館の当初からある部屋に設置されています。ただし、本館で暖炉が暖房器具として使われていたのは数年で、程なくして蒸気によるセントラルヒーティングに変更されました。本館は木造2階建て、「木造なのに暖炉ってヤバくね?」ってことでチェンジしたんだとか。

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備え付けの浴衣も「鹿」が書かれていたりして奈良っぽい。

 

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バスルーム。ごく標準的な感じですね。

 

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アメニティのパッケージには奈良ホテルのロゴが。

 

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バスマットもちょっといい感じ。

 

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部屋には創業が同じ1909年という牛乳石鹸とのコラボグッズが記念品として置かれていました。

 

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パッケージの反対側が牛でなく鹿!

 

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ちょっと部屋でのんびりしてたら夕食のお時間になりました。

 

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本来、奈良ホテルのメインダイニングは本館の「三笠」なのですが、耐震工事のため4月までクローズ中。そのかわり、こちらの宴会場「金剛」でビュッフェ形式での夕食提供を行っています。

 

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ビールを頼んだらロゴ入りのグラスで提供されたのは流石って感じですかね。お料理はどれも「丁寧に作られてる」印象で美味しく、ゆっくり楽しませていただきました。

 

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こちらの宴会場のエントランスには昔使われていたカトラリーが展示されています。このホテルが戦前「鉄道省」直営だった時代、Japanese Government Railwayの頭文字「JGR」が刻印されているのが分かります。

 

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食事の後は館内を探検。こちらは本館からメインダイニングや新館へ繋がる廊下、壁面には皇室の皆様のお写真が飾られています。こちらのホテル、皇族の方が奈良にお越しの際の宿泊先でもあります。

 

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エントランスロビー。

 

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フロントの向かいには暖炉と鳥居という不思議な組み合わせ。日本のシンボル的に「鳥居」と組み込んだようです。

 

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エントランスロビーから2階へ向かう大階段。非常に雰囲気ありますが、ファッションマガジンの撮影などでよく使われるというのも頷けます。

 

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2階のバルコニーからエントランスとフロントを見下ろしたところ。

 

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10%割引券も貰っていたのでバーにも行ってみます。

 

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この重厚なムードがたまりません。

 

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案内されたのはサンルーム側の席ですが、こちらも大きな窓が開放的でステキです。

 

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奈良ホテルのオリジナルというカクテル「マントルピース」をオーダー。ホテルのシンボルである「マントルピース=暖炉」をイメージし、ブランデーや赤ワインなどを使ったものだそうです。こちらのバー、カバーチャージも不要でカクテル類もそれほど高くないので結構お勧めです。こういうトコにしれっと入れるとオトナって感じがするよね。

 

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翌朝はちょっと早めに朝7時頃から朝食を戴きました。ホテルの名物という茶粥も。

 

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オムレツはシェフがその場で調理してくれるスタイルですが、これが絶妙の焼き加減で絶品でした。

 

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朝食を早めたのは、こちらのホテルでは毎朝8時40分頃からレクチャーがあるから。ホテルに関する説明やエピソード紹介、簡単な館内の案内などを1時間ほど行ってくれます。この部屋は宴会場「桐の間」で、当初は大型のシャンデリア2基しか照明がなく暗くて、おめでたい席には使いにくい部屋だったそうです。時折「うちの娘の不細工がバレないのでここがいい」なんてのもあったそうですが。今の陛下の幼少期、ここで卓球をしたりしたことも。皇族の方って卓球が上手で、ホテルスタッフで国体出場経験者でも真面目にやらないと負ける程だとか。

 

こちらのホテル、実は「国」のものだったって知ってました? もともとは日露戦争後の外国人訪問者の増加を受けて、関西鉄道奈良市都ホテル創始者とで企画していたホテルですが、国の方針で関西鉄道が国有化。鉄道運営を行っていた鉄道院が引き継ぐ形で建設が進められ、1909年に開業しました。当初は民間経営でしたが、数年で経営難により撤退、ホテル運営を鉄道院が引き継ぐことになりました。開業当初は50名ほどのスタッフがいたそうですが、宿泊客の数がスタッフの数を超えることは滅多になかったらしいです。要は「思ったよりインバウンドが来なかった」ってこと。

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ホテルの外観は和風の2階建て木造建築です。設計者は東京駅を手がけたことで有名な建築界の重鎮、辰野金吾。ただ、辰野金吾はイギリスに留学するなど西洋建築が得意分野で、こんなコテコテ日本建築に係わったというのにはちょっと違和感が。実は理由があって、この少し前に奈良公園に建てられた建築のせいらしんです。1895年に建てられた奈良国立博物館は完全な洋風建築だったのですが、地元では「奈良の景観にそぐわない」と大不評。まぁそりゃ、神社仏閣ばっかりの奈良、しかも明治維新直後で西洋の建築なんて見慣れてない人ばっかりという中で異国の建物がいきなり出てきたら違和感抱かない方がヘンですわ。そんなわけで、「できるだけ地元の方になじんで貰えるように」ということで、外から見たらお寺か何かにしか見えないようなデザインになったんだとか。

 

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次はホテルロビー「桜の間」に移り、続きおお話を伺います。国が迎賓館的に扱っていた面もあるため、ホテルが所蔵する絵画ってのも相当価値があるものばかりで、この部屋に飾られている4点を合わせただけで評価額1億円近いと聞いてびっくり。

 

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また、ユニークなエピソードを持つのがこのピアノ。第2次大戦での日本の敗戦後、このホテルは米軍に接収されリクリエーション施設として利用されることになります。それに備え、「米兵が何をするか分からないから」と女性スタッフは全員解雇。館内に飾られていた絵も「米軍が勝手に持ち出すかもしれないから」と奈良駅の倉庫に隠しました。で、このピアノも「米兵がコレを楽しそうに弾いてる姿を見るのがシャク」みたいな理由で隠されることになりました。米軍施設として使用されていた時代は現在のJTBが運営していたそうです。

で、米軍の接収が解除されると、このホテルは所有権が戦後誕生した「日本国有鉄道」、つまり国鉄のものになります。ただし、当時の国鉄は鉄道以外の事業には厳しい制限が課せられていたためホテル運営が出来ず、都ホテルが運営を担当することになりました。

営業再開に際して絵画は戻しましたが、隠したピアノについては所在不明になってしまいます。それが見つかるきっかけは、なんと梅田のヨドバシカメラ。あの場所には「大阪鉄道管理局」が建っていたのですが、JR西日本ヨドバシカメラに土地・建物を売却します。で、その旧建物の解体の際にこのピアノが発見され、ヨドバシカメラ側は「忘れ物ですよ」とばかりにこのピアノをJR西日本に返却しました。受け取ったJR西日本はこれを弁天町にあった交通科学博物館の倉庫に仕舞います。奈良ホテルのスタッフが地道な調査でこれを見つけるのですが、このピアノが奈良ホテルの所有という証拠がないので、なかなかJR西日本が手渡してくれない…という状況が続きました。それが奇跡的に「アインシュタインが来日して奈良ホテルに宿泊した際にこのピアノを弾いた写真」が遺されていることが判明し、2012年にやっと帰還することになったそうです。このホテルも国鉄分割民営化の際には国鉄からJR西日本に継承されてるんだから、そんなに固いこと言わずにピアノ渡せば良いような気がするけどな…。側面に鉄道院・鉄道省のシンボルである動輪マークが刻印されているなど、なかなか特徴的なピアノです。

ホテルに関するエピソードはまだまだあるようで「連泊しても翌日は違う話」とまで言ってました。まぁ110年もやってれば色々あるよね。

 

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本館の客室エリアにも行ってみました。

 

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新館も悪くないのですが、やっぱりこのホテルは本館に泊まったほうが雰囲気が楽しめますねぇ。次は本館に泊まるぞ。