へんな旅ばかりしています。

へんな旅をしているようなので、自分のための防備録的にやってみます。

Who saves the queen? 「クイーンビートル」乗船記。

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JR九州高速船の運航する、博多と韓国の釜山を結ぶジェットフォイル「ビートル」。1991年に就航し、当初は営業的にも運行的にも苦労したようですが、約3時間で気軽に行ける海外旅行として人気となり、最盛期には年間35万人も利用する人気路線となりました。最近のインバウンドブームで韓国人の訪日客も増えてきていたようです。

ただ、ちょっとした問題も抱えていました。まずはLCCとの競合により利用者数が減少していたこと。一時は福岡~釜山の航空路線を撤退にまで追い込んでたほどなのですが、韓国系のLCCが再参入し競合が激しくなっていたんです。加えて「ジェットフォイル」にも課題がありました。現在保有している「ビートル」3隻は既に建造から30年程度経過したものばかり。ジェットフォイルボーイング(あの飛行機造ってる会社、です)が開発したものですが、現在その製造ライセンスをもつのは日本の川崎重工。ただ、いま新造船を造ろうとすると必要な機器の製造ロット数などの問題で一度に5隻程度の発注がないと難しい状況にあります。2017年に20年以上ぶりに東海汽船向けの新造船が納入されましたが、必要なパーツを修理用のスペアから確保した上、小ロット発注によるコスト増は離島路線向けの公的補助である程度カバーできたから可能になった、という面があります。つまり、同じジェットフォイルでの代替がかなり難しいんです。定員が200名程度ということで大型の団体に対応できないということもあったようです。加えて鯨などとの衝突事故が連続したことで航行中の着席・シートベルト着用が義務化されたため、「3時間座席に座りっぱなし」をお客に強いることになったのも、航空路線との競争にマイナスに働いてしまった面も。

そこで、JR九州は2018年、この航路に新しくトリマラン(三胴船)の高速船を投入することを決定しました。旅客定員はこれまでの倍以上の約500名。ジェットフォイルよりも速度が少し遅いため所要時間は延びますが、シートベルト着用義務などがなく船内を自由に動けるので、カフェや免税店、展望スペースなどのパブリックエリアを充実させて「船旅を楽しめる」という付加価値でLCCに勝つ!という戦略です。船名も海の女王!と「クイーンビートル」と決まり、JR九州といえば定番の水戸岡鋭治先生がデザインを担当。2020年の東京オリンピックのタイミングでの運航開始を目指して建造が始まりました。

しかしながらその翌年の2019年夏、日韓関係の急速な悪化で韓国発のインバウンドが急減し、ちょっと不穏な空気に。そして2020年の新型コロナのパンデミックが追い打ちをかけます。そもそも「ビートル」の日韓航路そのものが日本政府の「中国・韓国との船舶による旅客輸送の自粛要請」で3月から全便運休に追い込まれてしまうのです。オーストラリアで建造されていた「クイーンビートル」も入国制限などの影響を受けて製造が遅れ、博多港にやってきたのは昨年末。

ただ、問題はここで終わりません。この新しい「クイーンビートル」、国際航路を運航する前提だったため船籍がパナマとして登録されていたのでした。これは便宜置籍といって、税制などコスト的に有利な国の所属にするというもので、実際に日本でも国際航路の船の約6割がパナマ船籍なんだそうです。JR九州も経費削減を狙ったのでしょうが、外国船籍にしてしまうと日本国内での運航ができません。いわゆるカボタージュ規制というヤツで、国内の海運事業者の保護や安全保障などの観点から、日本国内の運送は日本船籍の船舶に限られます。つまりパナマ船籍の「クイーンビートル」は海外との人の往来が復活しない限りは博多港ニートしてなきゃいけない羽目になってしまったわけです。

ただでさえジェットフォイルも時々対馬や平戸とかに臨時便が出せる程度で殆ど稼働していないのに、55億もの建造費をかけた「クイーンビートル」が全く活用できないのは事業存続に係わる事態です。そのため、新型コロナの影響で釜山航路が再開できない間に限って「クイーンビートル」を国内運送に就役させる特例を国土交通省に申請していました。これがこの3月、「同一港に戻る遊覧航路であれば」と認可されたのです。

 

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朝9時、博多港国際ターミナルにやってきました。今日は「クイーンビートル」が有償での旅客運送を始めた2日目にあたります。3月は20日・21日と27日・28日の計4日間、沖ノ島まで遊覧する航路が運航されました。

 

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今回はJR九州とHISの2社が販売するツアーとして用意されました。宗像大社御朱印付きとか、下船後のバスツアーのついたコースもありましたが、今回はHISで扱っていた乗船だけの商品で参加。代金は9800円でした。「ビートル」のカウンターで乗船手続きを行います。

 

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カウンターの前には「クイーンビートル」を紹介するパネルが。

 

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船の模型も展示されていました。

 

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ターミナル2階の国際線出発口・到着口のあるフロアに来てみました。日本政府による船舶での旅客輸送自粛によって昨年の3月9日から運休が続いているため、当然ながら店舗なども全て閉まっています。おそらく1年ぶりくらいで、ここに「船に乗る客」が入ったんじゃないかしら。

 

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ターミナル3階の展望デッキに出てみたら、「クイーンビートル」が停泊しているのを見ることができました。全長は約80m、ここからでもかなり大きく見えます。

 

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では乗船へ。国際航路であればターミナルの出発口から出国審査を抜けていくのですが、今回は国内航路なのでターミナルビルを出て外を歩いて船まで向かいます。

 

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ボーディングブリッジではスタッフの皆さんがお出迎え。搭乗券を確認され、いざ船内へ。

 

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座席はスタンダードクラスとビジネスクラスがありますが、今回はスタンダードクラスでの利用。横幅も20mあるそうで、かなり広く感じます。

 

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こちらがデッキプラン。1階がスタンダードクラス、2階がビジネスクラスというのが基本的な構成です。

 

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窓側の最前列のシートをアサインされました。

 

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座席はかなりゆったりしており、座り心地も上々。リクライニングもします。

 

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肘掛のところにはUSBの電源ソケットも用意されており、スマホの充電などにも困りません。

 

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座席の前にはテーブルを兼ねたパーティションが設置されていました。

 

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基本的には最前列となるシートの前にはパーティションがあるので、あまり人目が気にならないのはいいですね。

 

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シートには「安全のしおり」が。日本語・英語・韓国語での記載です。

 

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シートは進行方向に向けて設置されているのですが、一部こんな感じで4人掛けの向かい合わせになっている区画も用意されています。周囲をパーティションで囲まれて半個室のような設え。

 

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1階の前方には授乳室とチャイルドルームも設置されています。

 

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後方には大きなカフェスペース。

 

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この日もちゃんと営業しています。

 

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カフェの脇にはドリンク類の自動販売機も。

 

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朝9:45にクイーンビートルは沖ノ島へ向けて博多港を出港しました。

 

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出航後、船内をいろいろ見て廻りました。乗船口のエリアには、かなり広い手荷物収納スペースが用意されていました。

 

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施錠できるロッカーもあります。

 

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2階への階段。車椅子用と思しきリフトもあるようです。

 

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1階と2階を結ぶスロープもちゃんと用意されているんですけどね。

 

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2階にはビジネスクラスを設置。入口には暗証番号で解錠する扉があり、ビジネスクラス利用者のみが入室できるようになっています。

 

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ちょっと中を見せて貰ったのですが、個室間の強そうなシートが並んでいました。こちらはソフトドリンクの無料サービスなんかもあるようです。前方には展望スペースもあったりして、これはこれでなかなか良さそう。

 

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2階には免税店もあります。ただし、今日は国内航路ですので、クイーンビートル限定グッズなどの販売のみ。

 

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このフロアにはセブンティーンアイスの自販機が設置されていました。

 

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2階にも手荷物スペースは用意。

 

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自転車用のスペースまであるんですね。これなら輪行袋とかに仕舞わずにそのまま持ち込めそうです。

 

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博多港を出港してからおよそ1時間半、沖ノ島が見えてきました。もちろん上陸はできず、海上からの遊覧のみ、です。

 

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3階の展望室に来てみました。

 

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沖ノ島の周囲では速度を落として運航し、通常時は閉鎖されている外の展望デッキもこのタイミングで解放され、外から島を眺めることができました。

 

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福岡県の職員の方が乗り込んでガイドをしてくれたので、理解が深まりました。

 

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沖ノ島を離れ、あとは一路博多へ。お昼ご飯としてカフェで販売していた「クイーンサンド」を購入してみました。折角なので生ビール付きで。

 

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これは本来であればビジネスクラスで無料の軽食として提供される予定のものだそうです。これで1500円というこの日の販売価格はちょっとお高めな気がしますが、まぁモノは試し、ってことで。ボリュームは控えめでしたが、味の方はまずまずでしたよ。

 

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船内にはまったりした空気が流れます。それほど揺れを感じることもなく、高速艇の乗り心地も悪くないですね。

 

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午後1時過ぎ、博多港に入港。

 

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13:15到着予定のスケジュールだったのですが、着岸に手間取ったのか下船開始は30分ほど遅れた13:45でした。

 

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下船後、船の全体を眺めてみました。やっぱり真っ赤な船体はサイズも大きめなせいか、迫力はかなりのもの。

 

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乗船していた時間は約4時間弱と、実際にこの船が博多と釜山を結ぶ際の所要時間とほぼ同じです。船内を自由に動き回れるし、窓が大きくて展望もきくので、これなら飽きること無く船旅を楽しむことはできそうだな、という印象です。早く本来の航路で乗ってみたいもんですが…。あと、ビジネスクラスもなかなか良さそう。日韓路線ではスタンダードの運賃に5000円加算で提供される予定らしいですが、追加のサービスもあって、それも試してみたいと思いました。とにかく、なんとか堪え忍んでほしいもんです。