1988年の青函トンネル開業とともに運転を開始し、2015年に廃止となった寝台特急「北斗星」。使用されていた寝台車は用済みとなり解体を待つばかりだったのですが、これをクラウドファンディングで保存しようという動きが持ち上がり、見事に目標を達成し、2017年に2両が函館近くの茂辺地へ運ばれました。
しかしながら、その後の評判は宜しいとは言えず…。車内の見学などは細々とやっていたようですが、車両の傷みが激しく、充分な補修がされていなかった様子。ゲストハウスとして宿泊を受け入れるという話もありましたが、新型コロナの流行で有耶無耶になってしまいました。自分も昨年5月に立ち寄りましたが、率直に言って無残な状況を目の当たりにし、少し悲しくなったほど。
ところが今年になっていきなり「宿泊施設として2022年4月から営業を開始」なんてニュースが飛び込んできました。少しニュースにもなっていましたが、そこに写る車両は綺麗に整備されているようです。どうも「わざと」錆びさせて一気に更新してしまったみたい。ちょうど「ANAにキュン」企画で中部~函館で減額マイルとなっていたので、泊まりに行ってみることにしました。
「北斗星スクエア」は道南いさり火鉄道の茂辺地駅から徒歩5分ほどのところですが、今回は函館空港からのレンタカーで来訪しました。実はこの周辺、ホントに何もありません。飲食店はおろか商店も1軒のみ。またチェックインの時間が午後3時から午後5時までが基本とめっちゃ短いんですが、鉄道で来ると最終チェックインの時間に微妙に間に合わない…。事前に調整すれば午後5時以降でもチェックインはできるようなんですが、足はあったほうが良さそうと判断した次第。
敷地内に入ると茶色の小屋があります。
ここが「フロント」。チェックインはここで行います。客車のドアの鍵と客車内の個室の鍵の2つがついたキーホルダーを渡されました。ちなみに宿泊費は1泊5,500円。オープン記念価格らしいので、今後はもう少し上がるのかも。
では、寝台車の方へ。
ここに保存されているのはB寝台車の「オハネフ25 2」とB寝台個室とロビーを備えた「スハネ25 501」の2両です。
車端の貫通路が車両への出入口となっています。この扉が施錠できるようになっており、必ず常に鍵をかけるように、とのこと。なお、車両は「宿泊専用」として運用されているらしく、「この先は宿泊者のみ」との看板が出ていました。
ここが「お宿の玄関」にあたり、中は土足厳禁。ここで靴を脱いでスリッパに履き替えます。
左手はトイレだったところですが。撤去され靴箱に。
右手の洗面台は利用可能な状態。車内で使えるのはココだけです。
通路を進んでいくと…。
「北斗星」運行時には「ミニロビー」と呼ばれていたフリースペースがあります。「北斗星」は1日最大3往復まで運転されていましたが、その頃は1両まるごとロビーカーという編成もありました。その後1日1往復に縮小された際、この「ミニロビー」つきの車両のみとなり、定期運転終了まで使われていました。1980年代に利用者減に苦しんでいた国鉄のブルートレインのサービス改善策として導入されたものですが、そんな設備が残されたのは嬉しいことです。
ロビー内には自販機が置かれていますが実際には利用不可。現役当時のまま残されている「オブジェ」みたいなもんです。
お隣にはモニターがありますがテレビ放送は写らず、接続されたDVD視聴用です。有志が寄贈したらしい「北斗星」の上野~札幌の車内アナウンスを録音したディスクが用意されており、これを再生するとちょっと雰囲気が上がります。
先ほどの入口側は以前電話室だったブースとシャワールームのエリア。
電話室の中には冷蔵庫と電子レンジがあり、自由に使えます。周囲に何もない環境なので飲食物は持ち込むしかなく、この設備は非常に有り難いですね。
シャワー室は2室あり、食堂車でシャワーカードを購入して利用するようになっていました。
ここ「北斗星スクエア」では2室のうち1室が実際に利用可能。今でも寝台特急「サンライズ」にはシャワールームがありますが、シャワーカードの販売枚数が少なく常に争奪戦状態であることを考えると、動かないとはいえ「列車の中でシャワー」が気軽?に体験できる数少ない施設の一つと言えそうです。
脱衣スペース。右手の壁にある機械にカードを入れて使ってましたが、今日は勿論そんなものは不要です。ドライヤーも設置されていますが、これは現役時代にもあったものの筈。
シャワーカードでは、お湯が6分間使えるようになっていました。お湯を止めている間は時間がカウントされないので、こまめに給湯を止めながらカラダを洗ったものです。その時の青い給湯ボタンと赤い停止ボタンはそのまま健在。ただし、時間制限はないので「6分間」とかを気にすることはありません(一応「一人20分程度を目安に」というお願いはあります)。ボディソープ・シャンプー・リンスは備え付けがありました。
寝台エリアの方へ。まずあるのがB寝台個室「ソロ」です。
開放式B寝台と同じ料金で個室が使えるので人気が高かった設備です。「北斗星」の人気が落ちていた時期でも、「ソロ」は満室なんてことがよくありました。窓の下にコンセントがありますが、現役時代に室内に電源を取るところはなかったはずなので、後から追加したものと思われます。
扉の上には手荷物スペースなんかもありました。ただし、この「ソロ」は扱いとしては「ロッカー」として使うようになっています。この「ソロ」はシリンダー錠で鍵をかけられるのですが、あくまでも「客室」ではなく「貴重品など荷物を保管できる場所」として扱うように案内されるんですよ。恐らくここが「簡易宿泊所」なため、鍵のかかる部屋を「客室」にしてしまうと法的に諸々の「大人の事情」が出てきてしまうんでしょうね…。
お隣の車両は開放式B寝台。
ここにも洗面台とトイレがありますが、こちらは利用不可。
この「オハネフ25 2」のB寝台、タダの「開放式」じゃないヤツです。
実はこちら「Bコンパートメント」と呼ばれていた設備で、開放式B寝台の通路側に鍵のかかる扉を設置して個室化しているんです。ただし「個室」として販売されていたわけではなく、バラ売りだけど同じ区画のお客が同一グループなら個室としても使えるよ、みたいな感じでした。施錠はテンキー式ですが、「北斗星スクエア」では通電されておらず利用は不可。ただ、内側からの施錠はできるようでした。
車内はごく一般的な2段式B寝台の佇まいです。寝具はこちらに用意されています。
一度は外装があそこまで荒れたのに、車内は非常に綺麗に保たれているのは凄い。
こちらにもコンセントが。やはり「宿泊施設」としての利用を想定して手を加えていたんでしょう。
ベッドメイキングはセルフサービスです。シーツを敷くと「寝台」っぽくなりますね。なお夜間でも車内は減光されないので、就寝時は寝台のカーテンを引いて暗くする、といった感じになります。「ソロ」のほうは個室内の照明は自由に点灯できるんですが…。
ベッドサイドの読書灯もちゃんと使えます。
アメニティは使い捨てスリッパ(使い捨てでないスリッパも用意されていますが)、シャワールームで使うバスマットにフェイスタオルとバスタオル。歯ブラシもありました。浴衣などはないので、その手のモノは持参の必要あり。
車端の車掌室はドアが開いており、中が自由に見れる状態。
室内の機器などもじっくり眺められます。
ここで外部をじっくり見学。昨年見たときとは見違えるほど綺麗になっています。
車両の脇には白いコンテナハウスがありますが、昔はここにラーメン屋があったらしいです。その右隣がお手洗い。
車内のトイレは全て利用できないので、お手洗いは車両を出てコチラを使うことになります。この点はちょっと面倒かな。
車両の対面には2軒のトレーラーハウスがありますが、これも宿泊可能。こちらは「大きな窓から北斗星を眺めながら泊まれる」のがウリになってます。
とりあえず夕食の買い出しも…と函館市内まで出てみました。車で30分ちょっとの距離です。
ベイエリアの「海鮮市場本店」へ行ったら閉店前。総菜やお弁当類はあまり残っていませんでしたが、かなりの割引で入手できてラッキー。
ついでに周囲を散策。こちらも保存されている青函連絡船「摩周丸」が見えました。この後は函館山にでも登ろうと思ったのですが、お天気がイマイチっぽいのでパスしてお宿へ戻ります。
帰路に上磯の「ハセガワストア」で追加のお買い物。おそらくここが「北斗星スクエア」最寄りの毎日営業のコンビニ…とはいえ7kmほど離れていますが。名物の「やきとり弁当」はもちろんココでも買えます。
なお、茂辺地にも一応コンビニっぽいお店があります。こちらの「阿部商店」ですが、日曜は休業。閉店時間も早いみたいです。
夕食は買いだし品をロビーカーで頂きました。結局この日の宿泊者は自分ともう一組だけ。そちらは夜9時頃の到着だったので、それまで貸切状態で堪能させていただいてしまいました。
翌朝、お隣さんはチェックアウトも早く8時前には出発してしまったようなので、また貸切状態に。内部から外観まで、またじっくりと堪能させていただきました。
車両の裏側?は各種の配管などが剥き出し。まぁ宿泊施設として使うための追加の施工などもあるんで仕方ないんですが。
駅に近いせいか、時折通過する列車の音も聞こえてきます。雰囲気は悪くないのよね。
この「北斗星スクエア」、営業は夏期のみとなるようですが、それでも「寝台車に泊まれる貴重な施設」の一つであることには違いありません。一組で「ソロ」+「B寝台1区画」を使えるというのも贅沢だし、何よりも「ブルートレイン」の目玉施設的な「ロビーカー」の雰囲気が楽しめるのは全国でもここだけ。もうちょっと皆さん泊まりに来てもいいと思いますよ。
ちょっと名残惜しいですが朝9時過ぎにチェックアウト。手続きは特になく、鍵をフロントのロッカー内に返却するだけです。また泊まり来たいところかも。