まさか取れちゃうとは。
朝5時半、かってのバンコク中央駅だったフアランポーン駅にやってきました。この時間、公共交通はほぼ動いていないのでGrabでの移動です。
こんな早朝にここまで来た理由は、朝6時発の鉄道利用ツアーに参加するため。
しばらく前、タイ国鉄にJR北海道で使用されていた鉄道車両が譲渡されました。特急に使われていたキハ183系ディーゼルカーは日本で走っていた頃と同じような姿で整備され、週末の観光ツアー列車などに使用中。それに加え、青函トンネルを走っていた急行「はまなす」に使われていた14系客車も一緒に譲渡されていたのですが、こちらはかなりの改造を施され、ハイグレードな列車「ロイヤルブラッサム」に変身。その車両が今回の旅行のちょうど一週間前にカンチャナブリ行き観光ツアー列車として営業を開始していたのでした。その追加設定が翌週と翌々週も行われ、ラッキーなことに日本出国数日前にそのチケットが取れてしまったのです。この手のタイ国鉄のツアー、かなり人気が高くてなかなか予約が取れないらしいのですが…。ちなみにタイ国鉄のチケット、ツアー列車も定期列車もオンラインで比較的簡単に予約可能です。
まずは受付へ。
印刷したチケットを提示して参加証を受け取りました。
ホームには既に列車が入線していました。
車内は木材が多く使われており、かなり印象が変わっています。
シートは基本的に4名のボックスシート。恐らく14系時代の座席の骨格はそのままにクッションやモケットを取り替えたもののようです。リクライニング機能は撤去されて座席の向きも固定されていますが、その分シートピッチは広げられている様子。
座席中央の折りたたみテーブルは固定式で、テーブル裏面には電源コンセントが設置されていました。ただ、直視が難しい位置なのでちょっと使いにくいかも。急速充電対応のUSB-Cポートとかあっていいんですけどね。
隣の番線にはキハ183系ディーゼルカーが停車していました。ここは日本?
今日は朝6時半発のキハ183系使用のツアーも催行されるので、こちらのお客さんも多数いました。遠い異国の地でJR北海道カラーの列車が並ぶのを見る日が来るなんて誰も想像しなかったろうに…。
さて、列車は朝6時の定刻にカンチャナブリを目指して発車しました。しばらくすると大きな風呂敷に包まれたボックスが配られます。
中には朝食用のお弁当。箱も「ロイヤルブラッサム」専用デザインだ!
「この車両が昔は日本で走っていたことに因んで、日本の駅弁風に仕立てました」との説明書きが添えられていました。中身はご飯におかず3品、ゼリーにフルーツ、といった構成。
「ロイヤルブラッサム」は5両編成。最後尾の5号車は「展望車」となっておりカフェも営業中、ということで覗いてみました。
展望車の車内はこんな感じ。
カフェカウンターは中央に細長く設置されていて、ちょっと面白いレイアウトです。確かにこれだと両側の窓が塞がれないようになるな。
展望ペースにはテーブルや椅子が置かれています。
JR時代には車掌室などがあったスペースは窓も拡大されて展望エリアに大変身。ここから後面展望を楽しむことができるようになっていました。1週間前の初営業運転の時にはこちら側に電源車が連結されて展望がきかなかったらしいのですが、さすがに改善しました、なのかしら。
カフェではドリンク類を販売。
「ロイヤルブラッサム」オリジナルのコーヒーを注文。カフェの営業はタイでも老舗のコーヒーチェーン「ブラックキャニオン」が行っているみたいです。
他の車両もちょっと見てみました。5両編成の2号車から4号車の3両は座席車ですが、1号車は個室が並びます。窓2つ分の広さに6名程度が入れる個室が設置されていて、昔の国鉄のジョイフルトレイン「サロンエクスプレス東京」を彷彿とさせます。
また1号車にはユニバーサルデザインってことなのか、車椅子対応の出入口を用意。間口の広いドアとリフトが設置されていました。いまやタイでもこういうの、普通なんだな。なお、客車としては5両ですが、1号車の前に1両、電源車が繋がっています。14系客車には発電用ディーゼルエンジンを搭載した形式があり、日本国内で使用されていたときにはそれを編成中に加えることで照明や冷暖房といった電源を確保していました。「ロイヤルブラッサム」では発電用エンジンを搭載した車両は組み込まれておらず、外部の電源車を繋いで使う前提の様子です。
バンコクから約3時間半、クウェー川鉄橋に到着。
第2次大戦中に日本軍が架けたこの橋は一大観光名所。線路の上まで人で溢れています。
日本軍にとってはビルマ方面への唯一の補給ルートだったことから、連合軍の攻撃を何度も受けたことで知られています。
駅のそばには日本が持ち込んだSLが保存されているエリアも。
停車中に車内をもう少し探索。3両ある座席車の窓2列分はVIPシートとして、大きな回転式チェアが4席並んでいます。
窓に向いたカウンターに4席並んだところはフリースペースのようですが、ずっと占有しているお客さんが…。
20分ほど停車して先へ。クウェー川鉄橋をゆっくり渡ります。最後尾の展望車からこういう風景が楽しめるのがいいですね。
橋を渡って10分ほどすると通過するのが「チョンカイの切り通し」。線路を通すために岩を削り取ったのですが、列車の幅ギリギリです。
ここから暫くは田園地帯を進んでいきます。車内ではデザートがサービスされました。
タムクラセー橋駅を通過した先はまた絶景エリアに突入。展望車に陣取ります。
クウェー川に沿って木製の高架橋の上に線路が引かれている「アルヒル桟道橋」です。
列車は最徐行で橋の上を走行。崖ギリギリのところに橋は建てられていますが、よく作ったなぁ、と。
橋を渡りきるとタムクラセー駅。列車はここで折り返しとなるので、乗客は全員ここで降ろされます。暫くすると列車はこの先に向けて発車。おそらく機関車の付け替えなど折り返しの準備をこの先の駅で行うんでしょう。
泰緬鉄道は多数の現地人や連合宮の捕虜などが動員され、その過酷な環境から死者が続出し「死の鉄道」と呼ばれましたが、こんなカジュアルな看板出していいのか。
アルヒル桟道橋も線路の上を歩けるようになっており、観光客に大人気。
駅周辺にはお土産物屋に食堂やカフェなどが多数並んでいました。
「ロイヤルブラッサム」が戻ってくるのは20分ごとのアナウンスですが、なかなかやってきません。そのうちにバンコクを後に出た週末運行のレギュラーの観光列車が到着しました。前面の貫通路を開け放して展望車のかわりにしてるのか!
結局、列車が戻ってきたのは1時間後。
カンチャナブリを目指して先ほど来た線路を戻ります。今度は自席から車窓を楽しみました。
およそ1時間でカンチャナブリ駅に到着です。
ここでバスに乗り換え、ランチと観光へ出発。参加証のストラップの色でバスの号車分けがされていました。
15分ほどで昼食会場のレストランに到着。バスの車内では食事のテーブル分けが行われ、数少ない外国人の参加者は同じテーブルにアサインされました。
なるほど、川沿いのレストランでランチ、ってワケね。
テーブルには既に食事が用意されていました。なかなか本格的なタイ料理で、旨いんですが辛さも本格的だったよ…。
…と食事を楽しんでいたら急にドン!というショックとともにレストランフロアが動き始めました。どうもココ、河床みたいなテラスなのかと思ったら筏だったようで、タグボートで引っ張られてリバークルーズが突然始まっちゃった模様。
そうか、それで中央が空いて端の方にテーブルが寄ってたのか。川の景色がよく見えるもんね、そのほうが。
このエリアでは一般的なお遊びのようで、同じようなレストラン船?といくつかすれ違いました。こちらはお年寄りと思しき皆さんが野目や歌えや踊れやで大盛り上がりしてたぞ。
1時間ほどランチクルーズ?を楽しんでまたバスに乗車。
このツアーではカンチャナブリ近郊のお寺を2箇所巡る行程になっています。一つ目は「ワット タム プ ワー」。
このお堂の中に入ってみると…。
中は洞窟。洞窟寺院ということで知られているようです。
続いての2箇所目は「ワット メッタータム ポーティヤーン」です。
ここの見どころは千眼千手観音。ぐるっと回ったら顔が4面についてました。
カンチャナブリ駅に戻ってきたのは夕方5時過ぎ。通常、外国人観光客向けのカンチャナブリ行きツアーでは戦争博物館とか共同墓地とかが訪問先に入っているのですが、このツアーではその手の場所は一切なし。まぁ対象は基本的にタイ人向けっぽく、タイ人にとっては「今更?」ってスポットなのかもしれません。
列車は既に駅に到着しており、皆さん車両に戻っていきます。
車両の外観を改めて眺めてみます。14系時代の面影は火なり残っており、外観で大きく違うのは一部の窓が2枚分を繋げて大型化されている程度。
1号車は個室の窓が上下方向に大きく拡大されているので、印象がちょっと違います。
夕方5時半に発車、バンコクへ帰還します。車内では軽い夕食が提供されました。
デザートもついてきました。
最後に記念品としてキーホルダーが配布されました。
最後にもう一回展望車に行ってみました。
今度は5号車側が先頭なので、窓の向こうは機関車。
タイ風ミルクティーを頂きながら、最後の区間をのんびり過ごしました。
バンコクには午後8時過ぎに戻ってきました。ツアー代金は1799バーツ=7700円くらいとそこそこしますが、食事付きでゆったりした汽車旅を楽しめることを考えたらその価値は充分アリって気がします。「ロイヤルブラッサム」は第2編成も落成したそうで、今後はカンチャナブリ以外のツアーにも色々と使われるんじゃないでしょうか。それにしても今度はキハ183系のツアーにも参加しないと!