1960年代、日本では「メタボリズム」という建築運動が若手建築家によって始まりました。「メタボリズム」とは新陳代謝などを意味する言葉。建築も固定された装置ではなく「生き物のように成長したりするものだ」というような考え方、なんだそうです。有名なところでは黒川紀章設計の銀座「中銀カプセルタワービル」で、これは丸い柱に無数のカプセルがくっついたような構造ですが、時代のニーズによってカプセルを取り替えることを想定したものでした。中銀カプセルタワービルは実際にカプセル取り替えなどは行われませんでしたが、丹下健三設計の「山梨文化会館」は実際に建物の「空きスペース」にあとからフロア追加の工事が行われたりしています。
その「メタボリズム」運動の中心メンバーだった一人が菊竹清則。その菊竹清訓の初期の傑作とされる建物がこの「皆生温泉 東光園」です。
皆生温泉は鳥取県米子市。名古屋から米子って微妙に遠く、一番カンタンなのは新幹線で岡山まで出て伯備線の特急「やくも」に乗り換えるパターンなんですが、片道で1万5千円程度と結構な運賃がかかります。何か安い手はないか…と探していたら、大阪発で「新幹線&やくもスーパー早得きっぷ」という凄いヤツがありました。ウェブ予約限定ですが、大阪から米子まで4690円と通常料金の半額以下という安さです。これだと名古屋~大阪は別途手配しないといけないのですが、JR東海ツアーズの新幹線往復+ホテル一泊のパックで10800円のものがあり、ここから「GoToトラベル」の割引で支払額7020円+地域共通クーポンで実質5千円程度となりました。おかげで往復で1万5千円を切るくらいのコストに収まってくれました。
金曜夜の「ひかり」で大阪へ、お宿は日本橋の「相鉄グランドフレッサ大阪なんば」です。
「グランド」ってくらいだからゴーカなのかしら?と思ったら、まぁ普通のビジネスホテルでした。
翌朝、新大阪から「のぞみ」で岡山へ。
岡山で特急「やくも」に乗り換え。今から40年近く前の「国鉄」時代に製造された車両です。「国鉄」時代の車両が今でも使われている特急は他には東京から伊豆を結ぶ「踊り子」の185系がありますが、こちらは来年春の引退が発表されたばかり。それ以降はコレが唯一、ということになります。車内は今のスタンダードに合うように改装されていますが、乗り心地はやっぱり「年季」を感じさせるハードモードです。
新大阪から3時間強で米子に到着。
米子駅は建て替えのため、1960年代に造られた駅舎が9月に閉鎖されたばかり。現在の駅改札は仮駅舎になっています。
米子駅前のバスターミナルから皆生温泉行きのバスへ乗ります。皆生温泉までは毎時2本程度のバスが出ているようです。
終点「皆生温泉観光センター」まではおよそ20分。ここには「米子市観光センター」があり、バスターミナル機能に加え観光案内所やお土産物店、足湯などがありました。
ちょっと遠回りして海沿いを歩いてみます。
ここ皆生は「日本のトライアスロン発祥の地」ということで記念碑がたっています。1981年に日本で初めてのトライアスロン大会が開かれたのが皆生なんだそうです。この碑の脇には、初回の大会に参加した53人の名前が刻まれたプレートまでありました。
で、本日のお宿「東光園」に到着です。
この本館が建てられたのは1964年、東京オリンピックの年ですね。近未来的ながら和っぽいような、寺院のような、なんだか形容しがたい風貌…。
客室は主に奥の方の別館「喜多の館」に配置されていますが、本館にも3階、5階、6階に客室が。
エントランスは妙にマッシブな印象。一応言っときますが温泉旅館ですからねココ。
吹き抜けのロビーとフロント。ど真ん中を数本の柱が貫いていますが、これが微妙に神社仏閣のような雰囲気なんですよ、コンクリートなのに。
この建物を堪能するなら当然、お泊まりは本館を選びたいところ。お値段的には少し高いのですが、本館「天台」指定で予約しました。5階の部屋をアサイン。
扉を開けたらいきなり目に飛び込んできたのがコレ。あれ?なにか間違えた?と思っちゃいましたよ一瞬…。
奥の方にちゃんと和室がありました。外観はあんな感じなのに、内部は思いっきり和風の旅館という佇まいです。
部屋にはバス・トイレ付き。洗面台はこんな感じで、奥が浴室。
浴室には大きな窓があるのですが、目隠しフィルムが貼られていて外の景色は眺められません。まぁこちら側は温泉街に面しているので、向かいの旅館とかから見えそうな場所だったりするんだけど。
では、館内を探索。
この建物の大きな特徴の一つが、4階の空中庭園でしょう。この建物、5階と6階は7階から吊られているような構造なんです。コンクリートで和風の繊細な感じの建物にするために採用した構造、だそう。
床に砂利が撒かれている程度で、至ってシンプル。
ここから庭園が眺められますが、これも有名な彫刻家、流政之の設計によるもの。この庭園との対比として敢えて空中庭園を簡素にしたのでは、とも言われているらしいです。
階段室の造形もエモい。
庭園側から本館を眺めたところ。
庭園も雰囲気はいいですね。
ロビーの一角にはギャラリーがあります。
このギャラリー、なんと本館に関する解説などがメイン。菊竹清訓やこの建物の詳しい解説パネルなどが並んでおり、建築好きならかなり見入ってしまう内容でした。2017年には登録有形文化財にも指定されているのですが、それに関しての説明まであるんですよ。
この構造が特徴でもあるので、詳しい説明があるのはいいですね。
温泉旅館ですので、もちろん温泉はあります。ただ現在は内湯のみ。本当は露天風呂があって本館を眺めながら入れるはずなんですが、この春から不具合で使用停止になっちゃってました。
晩ご飯は「喜多の館」2階の料亭で。
会席スタイルでの提供です。
飲み物はグラスビールから。
お造り。
鮮魚のせいろ蒸し。
このへんで日本酒にチェンジ。地元のお酒「久米桜」です。
蒸し物に…。
天ぷらとお蕎麦も。温かいものはタイミングよく出てきてくれます。
〆の炊き込みご飯。
最後にデザートも。老舗だけあってお味は悪くない感じ。ボリュームもかなりありました。
夜になると本館はライトアップされ雰囲気が変わります。
翌朝、最上階の7階の部屋を見せてもらいました。昔はレストランだったようですが、今はイベントスペースとして使われているようです。外観上でも目立つ頂点の三角屋根の下の部分がココで、天窓がついているのが解ります。
ここから、大山から昇る朝日を拝ませて貰いました。
朝食は「喜多の館」4階のレストランで。
バイキング形式ですが、まぁ「一般的な温泉旅館の朝食バイキング」といったラインナップですね。
朝食後、チェックアウトしました。エントランスから見ると、大きな窓から庭園の風景が広がる構成なんですね。なお、館内は非常に綺麗に保たれているのですが、建物自体のメンテは若干厳しい印象を持ってしまったのは事実。コロナ禍でいろいろ大変なせいもあるんだとは思うのですが、露天風呂が利用できないまま半年経っている、というのも気になります。せっかく文化財登録もされたことだし、外観なども修復を検討していただきたいところです。
帰りも米子駅から特急「やくも」で岡山、そこから新幹線で大阪、のパターン。
JR東海ツアーズの旅行商品には「ずらし旅 選べる体験ご利用券」がついてくるものがあるのですが、今回利用した商品にもついてきました。大阪でもいくつか選択肢があるのですが、通天閣に入れるオプションがあったので、そちらに行ってみることに。
通天閣入場のオプションには、通常の展望台に加えてその上のオープンデッキ「天望パラダイス」への入場も含まれています。
ここからの夕景もなかなかいいのですが…。
この「天望パラダイス」には昨年末、一部がはみ出している「張り出し展望台」ができたばかり。
はみ出しているエリアの床はガラス張りで、なかなかのスリルでした。
なお通天閣プランだと居酒屋「横綱」での串カツ6本セットも入っているので、軽く晩酌してから帰りました。これで実質トータル2000円以上のバリューはあったはず。